かつては、主従関係をはっきりさせるといった考え方が主流だった、愛犬のしつけ。
しかし、昨今の獣医行動学の専門家たちが提唱しているのは、頼れる保護者として褒めるしつけです。
「主従関係」という言葉の誤解
以前は、犬は群れで生きる動物であり、人間がボスになって順位付けをしなければならないという説が信じられていました。
しかし、近年の動物行動学の研究により、家庭犬はオオカミのような厳格な縦社会の群れを作らないことがわかっています。
現在の獣医学会では、無理やり仰向けに押さえつけたり、力で服従させたりする方法は、犬に不必要な恐怖を与え、攻撃性を高めるリスクがあるとして推奨されていません。
愛犬が必要としているのは怖いボスではなく、安心でき頼れる保護者です。
科学的に証明された褒める効果
では、どうすれば愛犬にルールを伝えられるのでしょうか?
答えはシンプルです。
良いことをしたらご褒美がある、という、正の強化を使うことです。
- 脳のメカニズム: 犬に限らず人間もそうですが、「ある行動をしたら、いいこと(おやつ・褒め言葉)があった」と経験すると、脳内でドーパミンが分泌され、その行動を自ら繰り返そうと学習します。
- 怒ることのデメリット: 逆に、怒る・罰を与える方法は、犬に何をすべきかを教えられません。「怖いから今はやめておこう」と一時的に行動を止めることはできますが、それは理解ではなく萎縮です。副作用として、飼い主さんの手や声を怖がるようになってしまうこともあります。
好ましい行動をした瞬間に、褒める
これは、人間の問題行動を抑える方法としても広く使われている方法であり、わんちゃんのしつけにおいても、一番の成功の近道です。
「困った行動」には必ず理由がある
わんちゃんは、飼い主さんを困らせようとしてイタズラをしているわけではありません。問題行動の裏には、必ず満たされないニーズが隠れています。
- 家具をかじる: 歯が痒い・退屈でエネルギーが余っている
- 吠える:怖い・不安・こっちを見てほしい
- トイレの失敗: 場所が気に入らない・膀胱炎などの病気
「ダメ!」と叱る前に、「どうしてそうしたのかな?」と一呼吸置いて考えてみてください。
退屈そうであれば、長く噛めるおもちゃをあげる。
怖くて吠えているならば、その対象から離してあげる。
それだけで、問題行動は減っていきます。わんちゃんを叱る前に、環境を整えてあげることが大切です。
褒めるしつけを実践してみよう
「お座り」や「待て」は、犬を服従させるための命令ではありません。
指示は、「こうすれば安全だよ」「こうすればいいことがあるよ」と伝えるための、コミュニケーションツールです。
お家の中でリラックスして過ごすためのルールを、楽しいゲームのように教えてあげてください。失敗しても叱らず、成功したときに大げさに喜ぶことが大切です。
1. しつけの基本のルール:3秒以内に褒めよう
わんちゃんの記憶は、私たちが思っているよりも短期的です。
良いことをしてから時間が経ってご褒美をあげても、何に対して褒められたのかが伝わりません。
- ルール: 行動した直後(できれば1秒以内、遅くても3秒以内)に、「いいこ!(Yes!)」と声をかけ、おやつをあげます。
- コツ: まるでカメラのシャッターを切るように、良い瞬間を切り取るイメージです。
2. 実践①:「お座り」は手で押さない
「お座り!」と言いながら、お尻をグイッと押していませんか?
これだと、わんちゃんは押されたから座っただけで、自分で考えて行動したことになりません。おやつを使った誘導作戦がおすすめです。
- ステップ1: わんちゃんの鼻先に、おやつを握った手を持っていき、匂いを嗅がせます。
- ステップ2: その手を、鼻先からゆっくり頭の後ろの方へ動かします。
- ステップ3: わんちゃんは視線でおやつを追うために自然と顔が上がり、バランスを取ろうとしてお尻がストンと床につきます。
- ステップ4: お尻がついた瞬間に「お座り(またはYes)」と言って、おやつをあげます。
これを繰り返すと、「お座り」という言葉と「座る動作」と「いいこと(おやつ)」がセットで記憶されます。
3. 実践②:甘噛みには交換条件
子犬の頃の甘噛みや、遊びの延長でのガブッ。
「ダメ!」と手を引っ込めたり、口を掴んで叱ったりすると、遊んでくれていると勘違いし、興奮して余計に噛んでくることがあります。
ここでは、噛んでいいものといけないものを教えるゲームをします。
- ステップ1: 手を噛もうとしたら、無言で噛んでもいいおもちゃを口元に差し出します。
- ステップ2: おもちゃを噛んだら、大げさに「いい子ー!」と褒めて一緒に遊びます。
- ステップ3: もし手を噛み続けたら、「痛い!」と短く言って、その場から立ち去るか、背中を向けて数分間無視します。楽しい時間を終了させまることが重要です。
手を噛んでもつまらない、遊びが終わる。おもちゃを噛むのは楽しい、褒められる。と、学習してもらうのが正解です。
4. 実践③:トイレは成功体験の積み重ね
トイレの失敗を叱っていませんか?
あとから「ここはダメでしょ!」と怒っても、わんちゃんは排泄したこと自体を怒られたと勘違いしてしまう恐れがあります。かえって、隠れてするようになってしまい、上手くいきません。
- 成功させるコツ: 寝起きや食後など、もよおしそうなタイミングでトイレシートへ連れて行きます。
- パーティータイム: 上手にできたら、その瞬間にお祭り騒ぎのように褒めちぎり、最高のおやつをあげます。
- 失敗したら: 完全無視です。叱らず、わんちゃんが見ていない隙にササッと片付けます。
根気強く、できたときだけ褒め続けてください。
最初はうまくいかなくて当たり前
しつけは簡単には終わりません。
それでも怒るのではなく、小さな成長を一緒に喜びながら進めていきましょう。
どうしても上手くいかないときは、自分の行動を振り返ってみてください。
失敗したときも、いつも通りわんちゃんに構っていませんか?
成功しても失敗しても、どちらでも大好きな飼い主さんに構ってもらえると、わんちゃんは「失敗してもいいや」と思ってしまいます。
心苦しいかもしれませんが、失敗したときにその場を立ち去るなど、わんちゃんにとって「失敗すると楽しくない」と思ってもらえるように行動してみてください。
楽しくない思いをさせてしまったぶん、成功したときは凄く喜んで、わんちゃんを沢山褒めてあげてくださいね。



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